はじめに
補助金を活用しながら事業を進めたいと考えている方の中には、申請手続きや書類の作成を第三者に任せられる「申請代行」を検討している方もいらっしゃるのではないでしょうか。とりわけ補助金は、要件の確認や書類の準備などやるべきことが多く、十分に準備するためには時間と労力がかかります。そこで専門家へ依頼してスムーズに進められれば心強いものですが、実際には「申請手続きは申請者本人が行うこと」と定められている補助金も多く、申請代行を利用できないケースも珍しくありません。
本記事では、補助金の申請代行を利用するときに確認しておきたいポイントや、代行が認められない場合に受けられるサポートの活用方法などについて解説します。あわせて、似た制度である助成金の申請代行においても押さえておくべき点を紹介していきます。複数の補助金を視野に入れている方、あるいは助成金の活用を検討している方はぜひ参考にしてみてください。
補助金の申請代行を利用するときのポイント
申請代行の可否をチェックすることが重要
補助金の申請代行を利用するときにまず大切なのが、そもそもその補助金制度で「申請代行」が認められているかどうかを確認することです。補助金によっては、公募要領に「申請手続きや書類の作成は申請者本人が行うこと」といった趣旨の文言があり、実質的に代理申請が禁止されているケースがあります。
仮に禁止されている制度で代理申請を行ってしまうと、不採択のリスクが高まるだけでなく、違反として名前を公表される可能性や、今後の公募への参加が難しくなる場合もあるため注意が必要です。以下のように、補助金によって申請代行の取り扱いが異なる点を押さえましょう。
補助金名 | 申請代行に関する記載例 | 留意するポイント |
---|---|---|
IT導入補助金 | 申請マイページの開設・交付申請は申請者自身が行う必要がある。なりすましと判断された場合は交付が取り消される恐れあり。 | 申請を丸投げできるわけではなく、あくまで申請者が中心。 |
ものづくり補助金 | 申請者本人による申請と認められない場合は不採択となる可能性。 | 代理申請が発覚すると申請そのものが通らなくなる場合も。 |
小規模事業者持続化補助金 | 代理申請は不正アクセス行為とみなされるため、一切認められていない。 | 本人以外が手続きを行うと違反と判断される恐れ大。 |
事業再構築補助金 | 事業計画の作成は申請者自身で行う必要がある。計画の丸ごと代行は認められない。 | 一部だけならサポート可能でも、全代行はNGの場合がある。 |
いずれの制度も「申請者自身が主体となって手続きを進めるべき」という考え方が共通しており、申請代行を強行すると大きなトラブルにつながる可能性があります。したがって、各補助金の公募要領や公式の案内を入念に確認し、そもそも代理申請自体が許されているのかどうかを把握しておくことが重要です。
申請代行が難しい場合でも活用できる「申請サポート」
アドバイスや書類作成支援を受けることは可能
「申請代行」として手続きをすべて専門家に任せることが難しい補助金であっても、専門家からアドバイスや書類のチェックを受けることは認められている場合が多いです。このように丸ごと依頼するのではなく、「サポート」の形で進める方法なら制度側も違反とみなさないケースがほとんどです。以下に、申請サポートの可否を整理しました。
サポート内容 | 可能/不可能 | 補足 |
---|---|---|
申請手続きを全面的に代行してもらう | ×(不可能) | 禁止されている補助金が多い。 |
電子申請のアカウント取得から入力、提出までを代行 | ×(不可能) | なりすましとみなされると不採択や厳しい処分を受ける恐れがある。 |
事業計画書の作成代行 | △(限定的) | 行政書士資格を持つ者のみが対応可能な場合あり。ただし制度によりNGの場合も。 |
申請方法や操作手順についての説明 | 〇(可能) | あくまで説明・アドバイスであれば問題ない。 |
書類の内容や事業計画の構成に関するアドバイス | 〇(可能) | 添削や具体的なヒアリングを伴うサポートも適切に行われることが多い。 |
申請内容の最終チェック | 〇(可能) | 申請者本人が作成したデータを点検する形であれば問題なし。 |
このように、実質的な「代理申請」にならない範囲であれば、第三者の知識や経験を活用しながら効率的に書類を整えられます。特に補助金の申請には抜け漏れがあってはいけない資料が多いため、事前に書類の不備を見つけてもらえるだけでも大いに助けになるでしょう。依頼範囲を明確にし、本人による作業と専門家によるサポートとの線引きをしっかりと行うことで、ルール違反を回避しつつ申請手続きを進められます。
制度ごとに異なる「申請代行やサポートの依頼先」
依頼先が指定されているケースも
補助金によっては、「どの機関や専門家に依頼すべきか」があらかじめ決まっていることもあります。主な例として、以下のような場合が挙げられます。
- IT導入補助金
IT導入支援事業者と呼ばれる登録事業者と協力して進める仕組みが設けられています。ITツールの導入支援を行う専門家が、申請における作業サポートやツール導入計画の助言を実施する形です。ただし、申請者本人の名義でマイページを取得し、必要事項を入力する主体はあくまでも事業者本人となります。 - 小規模事業者持続化補助金
商工会議所や商工会などの支援機関から助言を受けながら申請を進めることが要件になっています。一部の書類は商工会議所の発行が必要で、事業計画へのアドバイスをもらうことも推奨されますが、申請手続きや電子申請そのものを代理してもらうことはできません。 - 事業再構築補助金
申請時点で、「金融機関」または「認定支援機関」に事業計画の妥当性を確認してもらうことが定められています。金融機関の書面によるサポートを添付するのが申請要件の一部であり、より専門的な目線から計画の見直しを図る仕組みといえます。
このように、制度ごとに独自の仕組みや要件が設けられ、依頼先が特定の機関に限られることがあります。「代行依頼が全く許されない」補助金もあれば、「特定の機関のサポートが必須」という補助金もありますので、公募要領や公式アナウンスをよく読むことが大切です。
助成金の申請代行は社労士の独占業務
労働・社会保険分野の助成金は注意
「補助金」と似た仕組みとして「助成金」があります。両者とも原則として返済不要の公的支援ですが、助成金のうち厚生労働省が管轄するものに関しては、申請書類の作成や提出などの代理業務が「社会保険労務士(社労士)」の独占業務となっている点に注意が必要です。
社労士の独占業務として法律に明記されているのは、「労働および社会保険に関する法令に基づき、行政機関などへ提出する書類の作成、提出、申請代行など」とされる一連の行為です。厚生労働省が絡む助成金制度では、この独占業務が適用されるため、社労士以外の者が申請手続きを代行するのは違法となります。
ただし、厚生労働省以外が主体となって実施している「助成金」と呼ばれる制度(たとえば自治体が行う支援など)については、必ずしも社労士のみに限定されないケースもあります。いずれにしても、「補助金」と「助成金」とでルールが微妙に違うこと、さらに助成金の中でも担当省庁によって取り扱いが異なることを理解し、制度ごとの要件に合わせて適切な専門家へ依頼しましょう。
補助金の申請サポート業者を選ぶポイント
サポート内容や費用体系、実績の比較がカギ
補助金の申請サポートを依頼できる業者としては、金融機関や士業、民間のコンサルティング会社などが挙げられます。依頼先によって得意分野やサポート体制は大きく変わるため、複数の業者から話を聞いて比較したうえで、自社の状況に合ったサポートを選ぶことが大切です。具体的には、以下の項目を基準に検討してみるとよいでしょう。
項目 | 選び方のポイント |
---|---|
サポート内容 | 相談・アドバイスだけでなく、書類の添削や作成支援まで含まれているか、オンライン・対面など希望の方法で対応してもらえるかなどを確認します。 |
費用体系 | 着手金や成功報酬、あるいは成果報酬といった料金体系が明瞭かをチェックし、相場に比べて不当に高額ではないか、または説明が不十分ではないかに注意しましょう。 |
専門分野 | 対象の補助金に強いかどうか、関連資格を持つ人材が所属しているかなど、依頼内容に合致する分野の専門性があるかを確かめると安心です。 |
支援実績 | これまでの支援や採択の実績、利用者の評判などを確認し、申請プロセスや公募要領の変更に柔軟に対応できる体制があるかを見極めます。 |
同じ業者でも、対応できる補助金の種類やサポート範囲が異なっている場合もあります。また、申請者の経営状況や目指す目標を丁寧にヒアリングしてくれるかどうかも重要な判断材料です。報酬や手数料が安価で魅力的に見えても、希望するサポートが受けられないようでは意味がありません。自身が求めるサービスを明確にし、合致する業者を慎重に選ぶことが、採択率を高める近道といえます。
なお、あまりに費用が高額すぎたり、料金体系があいまいなまま契約を迫られたりする場合には要注意です。悪質な業者であれば、申請代行が認められていない制度だと知りながら「代行可能」とうたって契約金だけを受け取り、実際にはサポートをしないままトラブルに発展してしまうことも考えられます。
まとめ
補助金の申請代行を検討する際には、まず「その補助金で代理申請が認められているかどうか」を公募要領などから確認することが大切です。申請手続きや書類作成を申請者本人が行うよう明確に定めている補助金も多く、そのルールに違反すると、不採択や厳しい処分につながる恐れがあります。
ただし、申請代行が難しい補助金であっても、専門家からのアドバイスや書類のチェックといった「申請サポート」は受けられるケースが多いです。申請者自身の作業と第三者のサポートを組み合わせれば、書類の不備を防止し、スムーズに手続きを進められるでしょう。また、助成金についても社労士の独占業務に該当する場合があるなど、補助金とは少し異なるルールが存在するため、制度ごとの要件をきちんと把握しておく必要があります。
申請サポート業者を選ぶときは、サポート内容や料金、専門分野、実績などを総合的に比較して、自社に適した依頼先を見つけることがポイントです。費用とサポートのバランスを見極めたうえで、最終的には「自社が本当に必要とする範囲」の業務を提供してくれる業者を選ぶことが、補助金活用を成功へ導く第一歩となります。