はじめに
補助金は「資金繰りの追い風」になる一方、申請書類づくりや電子申請の操作など、慣れない作業が山ほど出てきます。このとき頼りになるのが“補助金申請代行サービス”ですが、「全部丸投げしたら違法になるの?」「行政書士と民間コンサルの違いは?」といった疑問もつきものです。本記事では 「補助金申請代行」 をメインキーワードに、合法・違法の境界線から専門家の選び方、依頼のメリット・デメリット、費用相場、そして自社で進める場合のコツまで、幅広く解説します。ややこしい規定を身近な事例に置き換えて説明するので、「申請サポートって結局どう活用すればいいの?」とモヤモヤしている方はぜひ最後までお付き合いください。
補助金申請代行の基本と合法ライン
補助金の世界では「書類のアドバイスはOK、作成の丸投げはNG」というルールが存在します。これは行政書士法や各補助金の公募要領で明確に線引きされているため、まずは大枠を押さえましょう。
行政書士の独占業務と相談業務の違い
行政書士は“官公署に提出する書類の作成代行”を独占的に行える国家資格です。したがって 「補助金申請書を本人に代わって作成・提出する行為」 は行政書士でなければ違法となります。
一方、相談・添削・市場調査・計数分析 といった「アドバイザリー」に当たる行為は資格がなくても可能です。民間コンサルがこの領域でサポートすることは違法ではありません。
社会保険労務士が独占する助成金領域
厚生労働省管轄の「雇用調整助成金」などは、社労士の独占業務に該当します。労務関連の助成金を第三者に丸投げする場合は必ず社労士に依頼しましょう。
ざっくり整理
- 補助金(経済産業省系など) … 行政書士が書類作成を代行可能。
- 助成金(厚生労働省系) … 社労士のみが書類作成を代行可能。
- 相談・添削 … 誰でもOK。ただし虚偽記載の指示は論外です。
違法代行のペナルティ
公募要領やGビズIDの利用規約に反した代理申請が発覚すると、不採択・交付取消・全額返還+加算金 という手痛いペナルティが待っています。代行業者を選ぶ際は「何を依頼してよいか」を必ず確認しましょう。
補助金別・代行範囲早見表
提出書類の作成可否や代理申請の可否は補助金ごとに微妙に異なります。下表で代表的な制度をまとめました。
補助金名 | 書類作成丸投げ | 代理申請(Gビズ操作) | 指定支援者 |
---|---|---|---|
事業再構築補助金 | 行政書士のみ可 ※計画書は事業者作成必須 | 不可(事業者自身のみ) | 認定支援機関の確認必須 |
小規模事業者持続化補助金 | 行政書士のみ可 | 不可 | 商工会・商工会議所の支援必須 |
IT導入補助金 | IT導入支援事業者のみ可 | 支援事業者が代理申請 | IT導入支援事業者 |
ものづくり補助金 | 行政書士のみ可 | 不可 | 認定支援機関の確認推奨 |
事業承継・引継ぎ補助金 | 行政書士のみ可 | 不可 | 認定支援機関の確認書が必要な枠あり |
チェックポイント
- GビズIDのアカウント開設は事業者本人のみ という規約が大半です。IDとパスワードの“貸し借り”は厳禁。
- 公式サイトで「第三者による入力・送信は不可」と明示されているケースが多いため、依頼前に必ず公募要領を読みましょう。
代行業者に依頼できるサポート内容
「丸投げNG」でも、専門家ができる支援は意外と幅広いです。以下のように段階ごとに整理するとイメージしやすくなります。
- ヒアリング&制度マッチング
- 事業内容や投資計画を聞き取り、最適な補助金を提案
- 市場調査・数値シミュレーション
- 業界データを用いて売上・利益予測を作成
- 事業計画書の骨子作成
- ストーリー構成やKPI設定をサポート
- 書類レビュー&添削
- 誤字脱字、審査項目への対応度をチェック
- 交付申請・実績報告のアドバイス
- 見積・証憑の取り方、システム入力の手順を指南
- 事後モニタリングのフォロー
- 成果報告書やアンケートの作成支援
ひと言メモ
「先に着手金を払ったのにヒアリングだけで終わった…」というトラブルを防ぐため、業務範囲と成果物を契約書で細かく明示しましょう。
専門家の種類と選び方
依頼先バリエーションと特徴
種別 | 得意領域 | 手数料モデル |
---|---|---|
行政書士 | 官公署書類作成・法令解釈 | 着手+成功報酬 or 時間単価 |
中小企業診断士 | 事業計画策定・経営コンサル | 着手+成功報酬が多い |
社会保険労務士 | 労務助成金・就業規則 | 着手+成功報酬(助成金率連動) |
公認会計士 / 税理士 | 財務シミュレーション・税務処理 | 月額顧問+スポット |
民間コンサルタント | 補助金特化ノウハウ | 成功報酬型が主流 |
認定支援機関 | 幅広い中小支援実績 | 着手+成功報酬/無料支援もあり |
商工会・商工会議所 | 地域密着の無料支援 | 原則無料 |
失敗しない専門家選びのチェックリスト
- 過去3年の採択実績を確認:件数よりも採択率に注目。
- 担当者が最後まで変わらないか:途中で人が代わるとヒアリング品質が落ちます。
- 料金体系が明瞭か:成功報酬の%・上限・経費負担範囲を確認。
- コミュニケーションツール:チャット・オンライン会議・対面など、自社スタイルと合うか。
- 守秘義務契約(NDA)の有無:機密情報を扱うので必須。
代行依頼のメリットとデメリット
メリット
- 採択率が向上:審査要件に合わせたストーリー構成や加点要素の盛り込みが可能。
- 工数削減:調査・数値計算・様式入力を外注し、本業に集中できる。
- 手続きミス防止:証憑の取り違えや期日超過を防げる。
- 事後フォローが楽:実績報告やモニタリング対応まで助言が得られる。
デメリット
- 費用負担:成功報酬10〜20%が相場。補助額が大きいほど報酬も増。
- 本質的な経営課題は自社で考える必要:丸投げ依存では事業が育たない。
- 業者選定リスク:実績のない業者に当たると時間と費用が無駄に。
- 情報漏えいリスク:機密保持契約を結ばないとアイデア流出の恐れ。
代行費用の相場と契約形態
補助金種別 | 着手金目安 | 成功報酬目安 | コメント |
---|---|---|---|
事業再構築補助金 | 10〜30万円 | 受給額の10〜15% | 大型案件ほどスケールディスカウント可 |
小規模事業者持続化補助金 | 0〜10万円 | 10〜20% | 採択額が小さいため割高感あり |
IT導入補助金 | 0円(支援事業者負担) | 0円(販売代金に含む) | ITツール販売マージンが報酬源 |
ものづくり補助金 | 20〜50万円 | 受給額の10%前後 | 調査コストが高いため着手金も高め |
助成金(雇用系) | 0〜10万円 | 受給額の15〜25% | 実績払いが多い |
覚えておくと便利
見積時に「報酬対象に消費税を含むか」「不採択時の着手金返金条件」「実績報告サポート費用の有無」を確認しましょう。後で“追加請求”トラブルを防げます。
依頼の前に準備すべき5つの資料
- 過去2〜3期の決算書または確定申告書
- 売上構成が分かる試算表・グラフ
- 補助対象となる投資計画の見積書
- 競合動向や市場規模を示すデータ(あれば)
- 経営課題と数値目標を箇条書きしたメモ
これらを用意しておくとヒアリングがスムーズに進み、着手金のムダを減らせます。
自社で申請に挑戦する場合のポイント
- 公式マニュアルを熟読し“最新版”か確認:締切ごとに細部が改訂されます。
- GビズID・jGrantsの操作は早めにテストログイン:締切前夜はアクセスが集中しがちです。
- 審査項目を箇条書きにしてセルフチェック:加点要素の盛り込み漏れを防ぐ。
- 数値根拠は第三者データで裏付け:感覚的な予測は減点対象。
- 提出書類を第三者に読ませる:誤字脱字や論理の飛躍をつぶす。
申請後のフォローアップと注意点
- 交付決定通知が来るまで契約・発注はNG:事前着手禁止の制度が多数。
- 見積・発注・納品・支払いの順番は“必ず”守る:証憑の整合性が審査ポイント。
- 実績報告書は写真・振込明細をセットで保存:クラウド保管+紙の2重管理がおすすめ。
- 成果報告アンケートは期限厳守:遅延すると次年度申請に響く場合があります。
まとめ
- 補助金申請代行は「アドバイスは誰でもOK」「書類作成は行政書士や指定支援機関」 が大原則。
- 助成金は社労士、IT導入補助金は支援事業者 など、制度ごとに指定があるため要確認。
- 代行業者を選ぶ際は 採択実績・料金体系・担当者の継続性・守秘義務 をチェックする。
- 依頼のメリットは採択率向上と工数削減、デメリットは費用と情報漏えいリスク。
- 自社申請に挑む場合も マニュアル熟読・データ根拠・セルフチェック で勝率を上げられる。
補助金は「資金調達」だけでなく、「事業計画を見直す良い機会」でもあります。信頼できる専門家とタッグを組み、ルールを守りつつ賢く活用して、次の成長ステージへ踏み出していきましょう。