はじめに
事業を譲り渡したい、あるいは買収して規模拡大を図りたい――そんなときに頭をよぎるのが「M&Aにかかる費用をどう確保するか」です。着手金や仲介手数料、買収後の設備投資まで考えると、自己資金だけでは心もとないケースも多いでしょう。そこで活用を検討したいのが、M&Aを支援する補助金・助成金です。本記事では、国の代表的な制度から自治体・財団独自の支援策、さらには無料で相談できる公的窓口まで、幅広く整理します。各制度の特徴や上手な探し方を理解し、資金面のハードルを下げてスムーズにM&Aを進めるヒントとしてご活用ください。
M&A向け補助金の全体像をつかむ
M&A関連費用を支援する公的制度は、大きく分けて国の補助金と自治体・財団の補助金があります。国の制度は補助上限額が大きく、全国どこからでも応募できる一方、倍率が高くなる傾向です。自治体や財団の制度は対象地域が限定される分、競争率が抑えられ、きめ細かな支援メニューが用意されている点が魅力です。
M&Aに使える主な補助金一覧
管轄 | 制度名 | 補助上限額 | 補助率 | 主な対象経費 | 特徴 |
---|---|---|---|---|---|
国 | 事業承継・引継ぎ補助金 | 最大950万円 ※廃業費上乗せ時 | 1/2 または 2/3 | 人件費・設備費・専門家謝金・廃業関連費 など | 申請枠が複数あり、買い手も売り手も利用可 |
自治体(例) | 東京都 事業承継支援補助金 | 最大200万円 | 2/3 | 外部専門家委託費 | 主に専門家活用費を手厚く支援 |
自治体(例) | 川崎市 事業承継・事業継続力強化補助金 | 最大100万円 | 1/2 | M&A関連手続き費用 等 | 事業継続計画策定とセットで評価 |
財団(例) | 横浜市 事業承継・M&A着手支援助成金 | 最大20万円 | 1/2 | 企業概要書・事業承継計画書の作成費 | 着手段階の調査書類に特化 |
ポイント
- 補助上限額を重視するなら国の制度を、採択率や地域独自のメニューを重視するなら自治体・財団制度をチェックするのが定石です。
- 同一事業で国と自治体の補助金を重複受給することは原則できません。制度ごとの“併用可否”も必ず確認しましょう。
国の柱:事業承継・引継ぎ補助金を深掘り
制度の狙いと申請枠
この補助金は、中小企業の事業承継やM&Aを契機にした経営革新や円滑な資源引継ぎを後押しするものです。申請枠は以下の三つに大別され、それぞれ対象経費と補助率が異なります。
申請枠 | 概要 | 補助上限額 | 補助率 | 具体的経費例 |
---|---|---|---|---|
経営革新枠 | 買収後の新商品開発・設備更新など成長投資 | 最大600万円(賃上げ達成で最大800万円) | 1/2 | 設備購入、店舗改装、原材料 など |
専門家活用枠 | M&A手続きで専門家を活用する場合 | 最大600万円 | 2/3 | 仲介手数料、弁護士・税理士謝金、システム利用料 |
廃業・再チャレンジ枠 | 事業売却・廃業後に再チャレンジする場合 | 最大950万円 | 1/2 | 廃業支援費、原状回復費、在庫処分費 |
ざっくり言うと
- 成長投資に使うなら「経営革新枠」
- 仲介手数料やデューデリ費用を抑えたいなら「専門家活用枠」
- 売却側・廃業側の負担を減らすなら「廃業・再チャレンジ枠」
採択率を上げる三つのコツ
- 地域経済への波及効果を具体的に示す
買収後の雇用創出や取引先拡大の見込みを数字で語ると、審査員が評価しやすくなります。 - 賃上げやデジタル化など政策的優先事項を盛り込む
公募要領にある加点項目をチェックし、自社計画へきれいに落とし込むことで得点アップを狙えます。 - 専門家のセカンドチェックを受ける
計画書の論理展開や費用の妥当性を客観的に点検してもらうと、減点リスクが減少します。
自治体・財団の補助金を探すコツ
効率的なリサーチ手順
- キーワード検索:「県名+事業承継 補助金」「市名+M&A 助成金」で最新公募要領をピンポイントでヒットさせる。
- ポータルサイト活用:J-Net21の支援情報ヘッドラインは地域とテーマで絞り込め、週1回のチェックでも十分キャッチアップ可能です。
- 相談窓口を味方に付ける:商工会議所やよろず支援拠点は、未公表の“予告情報”を教えてくれることも多く、早期準備に役立ちます。
地域独自制度の活用イメージ
- 専門家委託費に特化:都市部では仲介手数料や企業価値算定費用への補助が厚い傾向があります。
- 事業継続とセットで支援:災害対策やDX投資と同時に申請すると採択されやすい制度もあるため、公募要領の加点項目を要チェックです。
公的無料窓口:事業承継・引継ぎ支援センター
何が無料で、どこまで支援してくれる?
- 専門家相談:金融機関OBや登録士業による個別相談が無料。
- マッチング支援:譲渡希望者と譲受希望者の面談調整までを無償でサポート。
- 計画書作成アドバイス:譲渡スキームや資金繰りの整理を手取り足取り支援。
注意点
- 成約後の登記費用や税金は自己負担です。
- 仲介会社と異なり、交渉代行や価格交渉をセンターが担うわけではありません。
M&A補助金活用の成功事例
事例1:製造業の買収で設備更新を加速(経営革新枠活用)
老朽化した工場を買収したA社は、補助金を活用して最新NC旋盤を導入。補助率1/2で設備費の負担を圧縮し、製造リードタイムを30%短縮しました。
事例2:専門家活用枠で仲介手数料を大幅カット
B社は買収側としてM&A仲介会社を利用。手数料・デューデリ費用の2/3を補助金で賄い、実質負担を3分の1に抑えつつ、財務リスクの洗い出しを徹底できました。
事例3:自治体の補助金で承継計画書を整備
C社は後継ぎ難民状態でしたが、市の補助金で事業承継計画書の作成を外部専門家に委託。計画書を基に地元金融機関の支援を受け、スムーズに譲渡交渉が進みました。
まとめ
- M&Aの資金負担を軽減する手段として、国の「事業承継・引継ぎ補助金」と自治体・財団の独自制度が存在します。
- 国の制度は上限額が高いが競争率も高め、自治体制度は金額は控えめでも採択されやすいという棲み分けがあります。
- 公募要領の加点項目を押さえ、専門家チェックを受けることが採択率アップの近道です。
- 事業承継・引継ぎ支援センターを利用すれば、相談からマッチングまで無料で伴走してもらえます。
M&Aは“事業のバトン”を次世代につなぎ、新しい成長を生む重要な手段です。補助金や公的支援を賢く活用し、資金面の不安を減らしながら、理想的なマッチングと円滑な引継ぎを実現していきましょう。