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法人化 消費税 免税必見!課税事業者選択の最適タイミング

執筆者 | 2月 27, 2025 | 会計・資金繰り

はじめに

新年度が近づくと、法人化を検討される方も多いのではないでしょうか。個人事業主として順調に売上を伸ばしてきた場合、そろそろ法人化すべきかどうかは悩ましいテーマです。とりわけ、大きなポイントになるのが「法人化すると消費税が免税になるかどうか」です。

結論としては、条件さえ満たせば法人化によって消費税の免税を受けることが可能です。しかし、無条件に免税になるわけではなく、基準期間や特定期間といった判定基準があり、要件次第では消費税を納めたほうが得になるケースもあります。

本記事では、法人化と消費税の免税期間を中心に、免税要件や最大限に活用するためのヒント、さらに法人化時に気をつけたい注意点などを詳しく解説していきます。最新のトピックにも触れながら、専門家の目線でポイントをかみ砕いてみましたので、ぜひ最後までご覧いただき、ご自身の状況に合わせた選択にお役立てください。


法人化と消費税の免税期間を知る意義

法人化には、社会的信用度が高まったり、資金調達がしやすくなったりといったメリットがありますが、「消費税が免税になる期間がある」ことも大きな魅力のひとつです。ここでは、まず消費税の免税期間について大まかなポイントを確認していきます。

法人化後の消費税免税期間は最長2年間

法人を設立すると、最長で2年間は消費税の納税が免除される可能性があります。これは、以下の基準によって判定されるものです。

  • 基準期間…前々事業年度(1年決算法人の場合)
  • 特定期間…その事業年度の前事業年度開始の日以後6か月の期間

消費税の基本ルールでは、「基準期間における課税売上高が1,000万円以下」であれば、その事業年度の納税義務が免除されます(出典:国税庁 No.6501『納税義務の免除』)。しかし平成23年の法改正以降、「特定期間」における課税売上高あるいは給与等支払額が1,000万円を超えた場合は、たとえ基準期間では1,000万円以下でも消費税を納めなければならなくなりました。

個人事業主との組み合わせで最長4年間免税も可能

さらに、個人事業主としての期間と合わせると、最長4年間も消費税が免税になる可能性があります。具体的には、個人事業主として2年間免税を受けたあと、タイミングを見計らって法人化し、そこから新たに2年間の免税を受けるという手順です。もちろんすべてのケースで最長4年を丸々享受できるわけではありませんが、売上の伸びや給与等の支払額をコントロールして上手に合わせることで、結果的に節税効果を高めることができます。


基準期間と特定期間の違いを整理する

消費税の免税事業者になるかどうかを判定するうえでは、基準期間特定期間という2つの期間がポイントです。表形式でまとめると、次のようになります。

期間対象となる期間判定内容
基準期間前々事業年度(1年決算法人の場合)この期間の課税売上高が1,000万円以下かどうかをまずは確認
特定期間その事業年度の前事業年度開始の日以後6か月の期間基準期間の判定に加えて、この特定期間の①課税売上高、または②給与等支払額が1,000万円超の場合は課税事業者

このように、法人化後の免税判定では「まず基準期間を見る→基準期間で1,000万円以下なら特定期間も見る」というステップになります。平成23年の改正までは基準期間だけを見ていればよかったため、「消費税を支払わなくていいはずだ」と思い込んでいる方も少なくありません。しかし特定期間の概念が加わったことで、実際には売上や給与等支払額が高額になった場合、想定外のタイミングで課税事業者に該当してしまうケースがある点に要注意です。


法人化した後の消費税免税要件をチェックする

ここからは、法人を設立した場合に消費税の免税事業者になるための具体的な要件を確認します。前述のとおり、1期目は「基準期間における課税売上高が1,000万円以下か」で判断されますが、2期目以降についてはもう一歩踏み込んだチェックが必要です。

特定期間の課税売上高が1,000万円以下

1つ目は、特定期間の課税売上高が1,000万円以下であること。法人における特定期間は、「その事業年度の前事業年度開始の日以後6ヶ月」を指します。この半年間の売上高が1,000万円を超えるようであれば、たとえ基準期間が1,000万円以下でも課税事業者となり、消費税を納める義務が生じます。

特定期間の給与等支払額が1,000万円以下

特定期間における課税売上高が1,000万円を超えても、給与等支払額が1,000万円以下であれば免税事業者になれる可能性があります。消費税の判定には「課税売上高」で見る方法と「給与等支払額」で見る方法があり、どちらかが1,000万円を超えなければ課税事業者にならないからです。
とはいえ、売上高が1,000万円を超える状況で給与も抑えずにいると、簡単に1,000万円を超えてしまいがちです。もし特定期間内の給与等支払額を抑えられるようであれば、次のような調整を検討する価値があります。

  • 月末締め翌月払いにすることで、特定期間内の給与を5ヶ月分におさめるよう工夫する
  • 役員や従業員への支払を、一部は賞与や外注費扱いとして特定期間外へ移動する

ただし、安易に給与支払を外注費に切り替えると労務上の区分が曖昧になりかねません。あくまで適切な業務委託契約を行うなど、社会保険や労働保険との兼ね合いも含め、十分配慮しましょう。

設立1期目が7ヶ月以下

法人を設立する際に、最初の事業年度を7ヶ月以下に設定するのも、免税事業者になるテクニックのひとつです。これは、1期目の特定期間に該当する「前事業年度」がそもそも存在しなくなる(=特定期間の判定ができない)ため、結果的に消費税が免除されるという仕組みです。
ただし、この方法を使うと、いわゆる免税期間が1年7ヶ月ほどで終わってしまいます。初年度の期間を短くしたほうが良いかどうかは、売上高や給与等支払額が1,000万円を超えてしまう可能性がどれくらいあるかなどを踏まえて、総合的に判断するといいでしょう。


免税期間を最大限活用するためのポイント

「どうせ法人化するなら、なるべく長く消費税を免税にしたい」というのが本音ではないでしょうか。ここでは、免税を最大限に活用するための具体的なポイントを挙げてみます。

決算月を会社設立の前月に設定する

消費税の免税期間は1期目と2期目に該当するため、最初の事業年度をできるだけ長く設定するのがコツです。たとえば4月に法人を設立し、決算月を3月にすれば、1期目がほぼ1年(4月~翌年3月)となります。一方で4月設立にもかかわらず、決算月を9月にすると1期目が6ヶ月しかありません。
決算月の設定によって実質的な免税期間が左右されるため、法人設立前に十分に検討し、なるべく1期目を長く取れるようにしておくとよいでしょう。

特定期間の給与等支払額を抑える

前述のとおり、特定期間における給与等支払額が1,000万円を超えると消費税を納める義務が生じます。役員報酬や従業員の給与形態を工夫することで、特定期間内の支払額をコントロールすることは可能です。ただし、社会保険や所得税への影響も大きいので、短期的な節税効果だけで判断せず、トータルで損得を計算してみることをおすすめします。

1年目の事業年度を7ヶ月以下にする(ほかの対策が難しい場合)

もし、決算月を調整するのが難しい、または給与等支払額を抑えるのが困難な状況であれば、1年目の事業年度をあえて7ヶ月以下にするのも検討材料のひとつです。7ヶ月以下であれば1期目には特定期間が存在せず、判定そのものがないので必然的に免税事業者となります。トータルで約1年半ほど消費税の免税を享受できるため、状況によっては大きなメリットを生み出すこともあるでしょう。


法人化に伴う注意点

消費税の免税ばかりに注目していると、ほかの重要な論点を見落とすおそれがあります。ここでは、法人化によって生じる代表的な注意点をピックアップしていきます。

個人事業主時代の固定資産を法人へ引き継ぐ必要がある

法人化すると、個人事業主と法人は法律上別人格として扱われます。そのため、固定資産や棚卸資産などを**「個人→法人」へ売却する形で引き継ぎ**を行わなければなりません。具体的な処理は資産の種類に応じて異なりますが、概ね以下のようになります。

資産の種類引き継ぎ方法のイメージ
固定資産中古資産の購入扱い(個人→法人で売買契約)
棚卸資産仕入れとして扱う(個人→法人で売買契約)

売買契約書を交わす手続きや、消費税の取扱いに関する細かなルールもあるため、税理士などの専門家へ早めに相談すると安心です。

予定納税の減額申請を忘れずに

個人事業主の場合、前年度の所得をもとに予定納税が課されるケースがあります。しかし法人化すると、個人事業主の事業所得がなくなり、給与所得という形に変わります。にもかかわらず予定納税の通知が来た場合、本来よりも多く納税してしまうリスクがあるのです。
そこで、予定納税の減額申請を行うことで、余分に納税しなくて済むように調整できます。法人化後は消費税ばかりではなく、所得税周りの手続きにも目配りが必要です。

社会保険料が新たに発生する

法人化すれば、代表者含むすべての役員・従業員が社会保険に加入することが原則となります。個人事業主のときは国民健康保険や国民年金のみだった方も、法人化後は会社負担の厚生年金や健康保険の支払が新たに生じ、コストが増える場合があります。
社会保険料は会社と従業員で折半するため、雇用している人数が多いほど会社側の負担も大きくなります。経費として計上できるとはいえ、初期的な資金繰りに影響することもあるため、事前に資金計画を立てておきましょう。


消費税を納税したほうがお得になるケース

ここまで「いかに消費税を免税にするか」を軸にお話ししてきましたが、場合によってはあえて消費税を納税したほうが得になるケースも存在します。その典型例が、**「仕入税額>売上税額」**となるときです。

消費税は、

納付すべき消費税額 = 売上にかかる消費税額 – 仕入にかかる消費税額

という計算式で決まります。もし仕入税額のほうが多い場合は、その差額が還付金として受け取れることになります。しかし、免税事業者のままだとこの還付を受け取ることができません。大きな設備投資が見込まれる場合や、課税仕入が多く発生する場合は、あえて課税事業者になることで還付を受けるほうがトータルで得になる可能性もあるのです。


課税事業者になるための手続きと注意点

法人化後、2期目に消費税を納税したい、あるいは大きな設備投資のタイミングに合わせて還付を受けたい……そんなときは、**「課税事業者選択届出書」**を税務署に提出する必要があります。

課税事業者選択届出書とは

課税事業者選択届出書は、本来免税事業者の要件を満たしている事業者が、任意で課税事業者を選択するために提出する書類です。提出期限は、「適用を受けようとする課税期間初日の前日まで」ですので、例えば4月決算の会社が翌期から課税事業者を選択したい場合は、今期の3月末日までに提出する必要があります。

提出時の注意点

課税事業者選択届出書を提出すると、基本的に2年間は免税事業者に戻ることができなくなります。さらに、その間に1,000万円超の棚卸資産や高額な固定資産を仕入れた場合は、制限期間が3年に延びるケースもあるため注意が必要です。
2年(または3年)経過後は「課税事業者選択不適用届出書」を提出すれば、再び免税事業者に戻れますが、一度課税事業者を選択すると一定期間はやめられないということを認識しておきましょう。


まとめ

本記事では、法人化と消費税の免税という切り口から、以下のポイントを解説してきました。

  • 法人化後の免税期間は最長2年間で、個人事業主期間と合わせて最長4年間免税を享受できる可能性がある
  • 基準期間特定期間の両方で課税売上高や給与等支払額が1,000万円を超えないことが免税要件
  • 決算月の設定給与等支払額のコントロール、あるいは初年度を7ヶ月以下にするなどで免税を最大化できる
  • 法人化に伴い、固定資産の引き継ぎや社会保険への加入、予定納税の減額申請など消費税以外にも留意すべきポイントがある
  • 仕入税額が大きい場合は、むしろ課税事業者になって還付を受けたほうが得になるケースもある

消費税の免税は、事業運営にとって大きなメリットになり得る一方、条件や期間には複雑なルールが存在します。また、社会保険や他の税金との兼ね合い、今後の事業計画なども加味して総合的に判断しなければなりません。
「いつ設立するべきか」「どのタイミングで課税事業者を選択するべきか」は、それぞれの事業内容や成長見込みによって最適解が変わるものです。不明点があれば、ぜひ専門家(税理士や社労士など)に相談して、ご自身のビジネスに合った最良の方法を見つけてみてください。

なお、本記事内で参照した国税庁の情報は以下のとおりです。参考にしてみてください。

出典:国税庁 No.6501『納税義務の免除』

新たな年度を迎え、さまざまなチャレンジを計画する皆さまにとって、この情報が少しでもお役に立てば幸いです。必要に応じてその道のプロを巻き込みながら、より良い経営判断を行ってください。

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筆者:Machiko

筆者:Machiko

位置

神戸大学卒、中小企業診断士。システム開発会社にてITコンサルタント業務に従事したのち、Webエンジニア兼・講師として独立。SaaS立ち上げ支援やエンジニアリング支援等を担当しています。Udemyでは、自身が強みを持つ「IT」や「財務会計」「管理会計」「業務効率化」を軸に、スキルアップ術・ノウハウを紹介しています。